ランニング中に「あくび」が出ると、「酸素が足りていないのかな?」「疲れているサイン?」と不安になる人もいるかもしれません。結論から言うと、走っている時のあくびは、多くの場合、異常とは限りません。特に走り始め、朝ラン、仕事後のジョグ、暑い日、寝不足の日に数回出る程度であれば、体が運動モードへ切り替わる過程として捉えられます。

まず知っておきたいのは、「あくび=酸素不足」という説明は、現在の研究ではかなり弱いということです。Provineらの研究では、100%酸素や高濃度CO₂を吸入しても、あくびの頻度には大きな影響がありませんでした。また、呼吸数が約2倍になる程度の運動でも、あくびは増えなかったと報告されています。つまり、あくびは単純に「酸素を取り込むための反応」とは言い切れません。

では、なぜ走っている時にあくびが出るのでしょうか。1つ目の可能性は、脳や体の温度調節です。運動中は筋肉が熱を生み、体温が上がります。Physiopediaでも、運動では酸素や栄養の需要が増えるだけでなく、CO₂や代謝産物の排出、体温上昇、ホルモン変化など、体内環境の維持に多くの調整が必要になると説明されています。

あくびには、脳の温度調節に関わる可能性が示されています。Gallupらのレビューでは、あくびは脳温が上がった時に誘発され、頭部周囲の血流や吸気によって冷却に関与する可能性があると整理されています。ランニング中に深部体温が上がりやすい暑い日、湿度が高い日、寝不足で自律神経の調整が乱れやすい日は、あくびが出やすくなるかもしれません。

2つ目は、覚醒レベルの切り替えです。あくびは眠気や退屈のサインと思われがちですが、実際には「状態を切り替える反応」としても考えられています。たとえば、朝起きてすぐ、仕事終わりで疲れている時、レース前に緊張している時など、体と脳が別のモードへ移行する場面であくびが出ることがあります。走り始めにあくびが出る人は、体がまだ安静モードから運動モードへ移行している途中なのかもしれません。

3つ目は、疲労や睡眠不足、低血糖気味の状態です。前日の睡眠が短い、食事間隔が空いている、仕事後で脳が疲れている、カフェインを控えている、こうした条件では覚醒レベルが下がりやすくなります。その状態で走り出すと、体は心拍数や呼吸、血流、体温を一気に調整しようとします。その過程であくびが出ることは十分に考えられます。

対策としては、まず走り始めの10分をかなり楽に入ることです。いきなりペースを上げるよりも、会話できる強度で入り、呼吸・心拍・体温が自然に上がるのを待つ方が安全です。朝ランや空腹時のランニングでは、水分と少量の糖質を入れてから走るのも有効です。暑い日は、あくびを「体温調節が忙しくなっているサイン」と考え、ペースを落とす、日陰を選ぶ、距離を短くするなどの調整も必要です。

一方で注意が必要なケースもあります。あくびが急に異常に増えた、胸痛、動悸、冷汗、めまい、吐き気、強い息切れ、片側のしびれや脱力、ろれつが回らない、普段より明らかに走れない、といった症状を伴う場合は、単なる生理反応と決めつけない方がよいです。特に神経症状や循環器症状を伴う場合は、運動を中止して医療機関へ相談することが安全です。

まとめると、ランニング中のあくびは「酸素不足」と断定するより、体温調節、覚醒レベルの切り替え、疲労、睡眠不足、暑熱環境などが関係する現象として捉える方が自然です。数回出る程度で、他の危険な症状がなければ過度に心配する必要はありません。ただし、体調の変化を知らせる小さなサインでもあるため、「今日は疲れているかも」「暑さの影響があるかも」と自分のコンディションを見直すきっかけにするとよいでしょう。

参考として、Cochrane Libraryでは過換気症候群などに対する呼吸練習の有効性について、質の高いエビデンスは十分ではないとされています。したがって、走行中のあくびに対しても「呼吸法だけで解決する」と単純化せず、睡眠、疲労、暑熱、ペース設定、補給を含めて総合的に考えることが大切です。

参考資料

・Provine RR, Tate BC, Geldmacher LL. Yawning: no effect of 3-5% CO2, 100% O2, and exercise. Behav Neural Biol. 1987 Nov;48(3):382-93. doi: 10.1016/s0163-1047(87)90944-7. PMID: 3120687.

・https://www.physio-pedia.com/Exercise_Physiology?lang=en&utm_source=chatgpt.com

・Gallup AC, Eldakar OT. The thermoregulatory theory of yawning: what we know from over 5 years of research. Front Neurosci. 2013 Jan 2;6:188. doi: 10.3389/fnins.2012.00188. PMID: 23293583; PMCID: PMC3534187.

・Gupta S, Mittal S. Yawning and its physiological significance. Int J Appl Basic Med Res. 2013 Jan;3(1):11-5. doi: 10.4103/2229-516X.112230. PMID: 23776833; PMCID: PMC3678674.

・https://doi.org/10.1002/14651858.CD009041.pub2